「夢殻」通信

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help RSS 極私的世界映画………………第10部(1)          【高野射手男】

<<   作成日時 : 2011/11/30 08:28   >>

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(91)ミツバチのささやき El espíritu de la colmena/1973年/スペイン
監督・原案 ビクトル・エリセ
撮影 ルイス・カドラード
音楽 ルイス・デ・パブロ

★ブエノス・ディアス! あなたにも観てほしいが、まず私が再会したかった映画が、ついに2011年11月23日、NHK・BSプレミアムで放送! じつに26年ぶりであります。
★当時、私の周辺の皆さんはほとんどがご覧になり、たちまち少女アナ(アナ・トレント)にイカれてしまったものでした。むろん私も同じでしたが、映画には他にも魅力的なアイテムがたくさんあります。父親が愛用しているオルゴールつき懐中時計、巣箱、汽車ポッポ、レール、黒猫ミシヘル、古〜いピアノ、等々。しかし、何よりかにより「世界一すばらしい映画」が出てくるのですねえ。そう、ご存知『フランケンシュタイン』であります。
★世界一のモンスター映画のフィルムと映写機、そして〈高い評判〉を積んだトラックが、スペインの片田舎の村へ走りこんできます。「映画が来たぞ!」とはしゃぐ子どもたち。「今夜5時から公民館で……」と触れの声もにぎ画像にぎしい。いまだ10歳にもなっていないアナも、ほとんど歳の変わらない姉イサベル(イサベル・テリェリア)と連れ立って〈映画〉へと繰り出します。タバコの煙のおかげで、スクリーンへ届く光がくっきりと浮かび上がる。そのほかは闇。固唾をのむアナ。その双眸がまんまるで、おっきいのです。映画的スポットが、アナとイサベルの表情を照らし出していますが、むろんそれが架空の光なのを私たちは、なぜか、知っています。
★人間創造に憑かれたフランケンシュタイン博士の〈作品〉モンスター。彼と少女メアリーが水に花を浮かべて遊ぶ名高い場面が写り、続いて少女の死体が運ばれてゆきます。アナは姉に「どして殺したの?」「どして怪物も殺しちゃったの?」と訊ねますが、「あとで教えてあげる」といなされる。その夜ベッドに入ってから判ったことは、「映画は全部ウソだから誰も死んではいない」「怪物は精霊である」「熱心に呼びかければ姿が見える」。これらのキイワードがアナに与えた効き目――それがエリセのテーマでしたか?
★いいえ、監督の関心はもっとずっと深いものでした。光を操る技術を駆使して〈闇の深さ〉を追求する――これです。スクリーンが漆黒になり、微細な光点や物体の輝く部分だけが出現したり移動したりするカットが、さあ、どれだけの割合を占めるか計算はできませんが、闇に差し込む一筋の光芒といった画面も加えながら、エリセはひたすら井戸を下りていきます。(その井戸は、精霊が棲む廃屋の傍らにある。)
★どうもイサベラの様子が怪しいと、アナが物思いに沈みながらミシヘルを抱き締めたら、引っ掻いて逃げた。指先を舐めると、血の味だ。ポツリポツリ、タイプライターを叩いているときに階下で物音、続いて悲鳴。イサベラが倒れていて、呼んでも答えない。外へ出て家政婦に加勢を求めるが、誰もいません。部屋へ戻るとイサベラは消えてて、アナ呆然。するとそのとき背後から巨大な手袋が延びてきて、アナの口を塞いだのです! 外出から戻った母親がニッコリしながら立っていました。
★すぐ続いて、イサベラを交えた女の子たちが焚き火を跳び越えるシーンがあります。幼体から成体への変容を寿ぐ習俗。アナは、まだ参加できません。ここでもエリセは〈闇の祝祭〉を描くのに熱心です。
★ある日、疾走する列車から男が一人、飛び降りました。何かから逃げたのでしょう、例の廃屋に身を潜めます。アナは単独で接近し、リンゴや懐中時計(父の!)を与え、靴紐まで結んでやります。けれども、おゝ、夜のうちに追っ手の激しい銃撃を受けて、逃亡モンスターは命を絶たれます。父親の手に戻った懐中時計を見て事の成り行きを悟ったアナは、夜の中へと逃亡し、水辺で発見されますが、ひしと心の扉を閉じてしまい、物を言わなくなる。「長い時間が必要だよ」という医者の言葉だけを慰めに残して、映画は終わります。あるいは〈闇〉に浮か画像ぶ星の光に呼びかけるアナの声だけを残して。
★大昔、子どものための音楽教材作りを手伝ったことがあります。欧州各国の古謡童謡を収集しましたが、今も記憶に残るスペイン歌曲が映画のあちらこちらで聞こえてきて、物語の顛末とは別に、幸せな気分に浸りました。
★ところで、ふと思ったのですが、当時10歳とすると今まだ36歳。アナ・トレントは現在も健在で、ひょっとすると映画に出てはいまいか? ハイ出ていましたっ! それも、見逃してしまって口惜しい『ブリーン家の姉妹』に、アラゴン王女キャサリンの役で!!! この人物は、イギリス王ヘンリー8世の何番目かの奥方で、政略結婚の当事者の一人。彼女を蹴落として王妃となり、悲運の生涯を閉じたアン・ブリーンを主人公にしたオペラが、ドニゼッティの出世作『アンナ・ボレーナ』。オイラ、観たんだもんね、Metライブビューイングで。タイトルロールはアンナ・ネトレプコ。凄かった。
★それはそうと、タイトルの〈ささやき〉は原題では〈精霊〉ですが、〈ミツバチ〉は何を意味するのでしょう? アナたちの父親フェルナンド(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)がガラス製の巣箱で飼っているのはたしかですが、いったい昆虫たちの精霊とは? 物語の時代が1940年ごろに設定されていることから、独裁政権に苦しめられるスペイン民衆の姿が暗喩されているということですが、救いの星が精霊なのでしょうか? イサベラの考えでは、たしか、精霊=怪物だったはず……。疑問符が増えるばかりですが、それも傑作の証です。とにかくスペイン語がたくさん聞けてよかった。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
懐かしい!!映画イン映画のフランケンシュタインがよかったですねえ。猛烈にアナに会いたくなりました。それにしても、El espíritu de la colmena……「精霊」を「ささやき」とは名訳ではないでしょうか。して、ミツバチのささやきとは……
あかり
2011/11/30 10:23
あかり様、コメントありがと。最もスリリングな場面に触れていないので、苦情が来ないかビクビクしてます。苦情でも「ささやき」でも来てほしいですが。エリセ映画を続けてオンエアしてくれました。「エル・スール」。ご覧になりましたか?
いておん
2011/11/30 22:32

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